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ラアチャイ・ナロッブ
称号 最強有袋類
所属 不明
異界 不明
発言 「俺の強さはこんなモンじゃないさ」
「レディース&ジェントルメン! いよいよ本日のメインイベントです! 赤コーナー! 我らがヒーロー! カーーーンガルーーーーゥ、マーーースク!」
景気の良いリングアナウンサーの呼び込みとともに、ふれあいアニマルショーの人気ファイター、カンガルーマスクがリングに現れると、観客のボルテージは最高潮に達した。
「そして本日、カンガルーマスクに挑戦するのはこの男! 青コーナー! 極悪有袋類! ラアチャーーーーイ、ナーーーローーーーッブ!」
ロープを飛びえ、リングへと降り立つラアチャイ・ナロッブ。悪役ファイターの登場に、場内はブーイングの嵐に包まれる。

――彼はかつて、本物のファイターだった。
若くしてキックボクサーのチャンピオンとしてその名を馳せたラアチャイは、より強い相手を求めて旅に出た。当時の彼が目指したのは、種族、種目の一切を超えた最強の格闘家になる事だった。しかし、愛する人に出会い、愛息ルクチャイを授かった時、彼は格闘家の極みを目指すという、根無し草の様な生活に区切りをつけた。そして家族の為に、ショービジネスの世界へと身を投じたのだった。

――そして今日もゴングが鳴る。
ふれあいアニマルショーにおいて、悪役ファイターは負け役である。
「――いいかい? 観客は研ぎ澄まされた格闘術じゃない。彼らが求めているのは分かり易い勧善懲悪のストーリーなんだ」
団体のオーナーであるネズミの獣人は、ラアチャイを雇った時にそう念を押した。
リング上のラアチャイは、カンガルーマスクのワンツー・パンチを浴びながら、いつもの様にその言葉を頭に浮かべた。そうでもしなければ、思わず手が出てヒーローを倒してしまうかも知れない。そうなれば彼の一家は明日から路頭に迷うこととなる。
――そんな蚊の止まるようなスローパンチ、当たる芝居する方が難しいぜ……。
あとはいつもの様に適当なところでヒーローの必殺技を食らいノックダウンするだけ……のはずだった。
「……ルクチャイ!」
ラアチャイは、観客席に愛息、ルクチャイの姿を見つけた。
しかもルクチャイは、両脇に座る彼の友達にからかわれている様子である。
「まさか、俺のせいで……」
カンガルーマスクは必殺技、ローリング・ナックルを放つ為に、その右腕をブンブンと回している。その動きに合わせる様に、観客席で腕を回し始めたルクチャイの友達を見た時、ラアチャイの疑問は確信へとかわった。
――自分がこのパンチを受けた時、ルクチャイは殴られる。
そう悟った刹那、ラアチャイはカンガルーマスクの必殺技を軽くかわし、渾身のストレートを撃ち込んだ。
誰一人予想していなかった番狂わせに、場内は水を打った様に静まりかえる。
ラアチャイは観客席のルクチャイに、高らかに拳を上げてリングを後にした。

――その帰り道。
「父ちゃん、本当は強いんだね! 獣人最強だ!」
肩の上にのせたルクチャイが、そう誇らしげに言った。
「……俺の強さはこんなモンじゃないさ」
そうは言ってみたものの、ラアチャイの心中は複雑だった。
ふれあいアニマルショーのリングにはもう戻れない。
――さて、明日からどうやって食い扶持を稼ごうか……。
そう思った時、ラアチャイは一枚の張り紙に目をとめた。
「俺は“獣人”最強じゃない……」
そこには、種族を超えた格闘技の頂点を競う祭典『超絶最強武道会』への参加者を募集する内容が書かれていた。賞金も相当な額である。
「ルクチャイ! 俺は、全ての格闘家の頂点に立つ!」