クロム・マグナ学園祭

前編
――学園を揺るがした「あの事件」から半年。
教員、生徒が一丸となって手に手を合わせて協力し、ついに「新校舎」が完成した。
新校舎完成の記念式典で学園長ダンケルは声高らかに宣言する。

「あの日……開催が出来なかった我が校の学園祭」
「学園の復興記念と、更なる発展を願い、今こそ開催しよう!」

学園長の宣言にはしゃぐ生徒達の声を聞きながら、ダンケルには考えていることがあった。
「あの事件」の解決に協力してくれた彼ら――”魔法使いと黒猫”を是非とも我が校の学園祭に招きたいと。
その為の”鍵となる目印”は、あの日の別れ際に彼らへと渡してある。
あとは彼らをこちら側へと招き入れる儀式の準備を進めるだけだ。 間に合うといいのだが……。

――時を同じくして学園校舎裏。
そこには学園のはみ出しもの……いわゆる「不良」と呼ばれる生徒達が集まり、今日も今日とて学園内での上下を決めるための喧嘩に明け暮れていた。
中でも異彩を放つ2人の存在。 生徒会執行部のヴォルフと、彼をライバル視している巨漢の生徒ジョージ・トドロキだ。

……まったくいい加減にして欲しいものだ、俺は番長になんて興味が無いんだが。

ヴォルフは見た目で勘違いされ易いが「動物」や「草木の花々」、そしてこれは秘密だが「可愛らしいもの」が好きな心優しい男子。
争いに関しても出来ることなら遠慮願いたい。 生徒会に所属してからは立場的にも尚更だ。 煙に巻くようにしてはいるが、それも毎日続くようであれば身が持たない。

ヴォルフの気苦労など知らずに、ジョージが「今こそ学園最強の番長を決めるのだ!」と叫ぶ。

いつものように煙に巻きつつ逃げるヴォルフには閃いたことがあった。
『学園最強の番長』? ……妙案を思いついたかもしれない。 すぐに学園長や生徒会に掛け合ってみよう。 うまくいけば全て解決するかもしれない。
ヴォルフの提案は、”いくつかの条件”と共に実行を許された。

<番長ファイト基本ルール>
①善良な一般生徒に危害を加えない。
②校舎や備品を破壊しない。
③やり過ぎ厳禁。 敗者には鞭を打つべからず。
④腕に自身のある者は誰でも自由参加可能。
⑤最期の一人『番長オブザ番長』になった者には、1年の期間中「学園の番長」として君臨出来る。
 期間中は番長の命令は絶対。 敗者達は従わなくてはいけない。
⑥次の大会実施まで1年間は生徒同士の私闘禁止。

大会はクロム・マグナ魔道学園の学園祭当日に開催される。
こうして華やかな学園祭を舞台に『番長オブザ番長』の座をかけた不良達?の熱き戦いの幕が切って落とされた。

中編

ダンケルからの”招待状”で、ウィズ達がクロムマグナ学園の学園祭に訪れた時――そこは”番長オブザ番長”をかけた校舎全体を利用した大乱戦が幕を切っていた。
参加者は不良だけではなく多岐に渡った。
”番長オブザ番長”の特権である「1年間の絶対君主権」目当てに、一般の生徒達も名乗りをあげたからだ。

――熱烈なファン(親衛隊)も居る学園内の地下アイドル的存在の生徒。
彼女の目的は、自身の公式ファンクラブ設立と、学園によるアイドル活動の全面的なバックアップ。
……志半ばで敗れてはしまったものの、彼女の活躍は学園中の目に触れることとなり、ファン数を大幅に増やす結果となった。

――本年度の「ミス クロム・マグナ」 に輝いた生徒。
彼女は……本人には参加の意思など無かったが友達の推薦で参加してしまったので、とりあえずの目的は「図書館の本をもっと充実させて欲しい」だった。
元々参加意思が無かったがゆえに早々に棄権。 それよりも今は学園祭というお祭りを楽しみたいというのが彼女の考えだった。

――学園祭で警備委員を務める生徒。
彼女の目的は、トレーニング器具の充実と部活動費の増額。
普段から武の鍛練に余念ない彼女にとって、この戦いは自らの腕前を試す絶好の機会となったが、愚直過ぎる彼女の性格が災いし、たった一人で"とある女生徒のファン十数人"と戦い、これに敗北した。

――学園祭の模擬店で焼きそばを焼く男子生徒。
彼の目的は、「自身の経営する屋台」を購買部に出店する許可を貰うこと。 もちろん出店費用は全額学園持ち。
邪な野望を叶えんとする弟の暴挙を止めにきた兄との"兄弟対決"により、壮絶な相討ちとなった。
炎と水の兄弟対決は多くの女生徒たちの心を掴んだという……。


この他にも多数の生徒達……おおよそ戦いとは無縁の生徒達も”己の野望”もとい”己の夢”を叶える為に立ち上がった。
戦っては散っていく参加者達。

――生徒達が”健全”に汗を流すその姿を学園長室の窓から眺める一つの影。
そこには年甲斐も無く”番長オブザ番長”を目指して飛び入りでの参加を決意した学園長ダンケルの姿があった……。

後編
――"優勝候補"もとい"番町候補"としてついに動き出した学園長ダンケル。

彼の手によって次々と打ち倒されていくクロムマグナ学園生徒たち。
あの日確かに失った筈の”闇の力”でさえ、使いこなさせるまでに”修練済み”の彼に死角は無かった。
……二人の生徒……ヴォルフとジョージが立ちはだかるまでは。

突如現れた『最大の難敵』を前にして結ばれた一時的な共闘関係。
ジョージの拳が! ダンケルの魔法が! ヴォルフの動物たちが! 激しく交差する。

――――いったいどれだけの時間が流れたのだろうか。
熾烈を極めた3人の戦いも終焉を迎え、ついにダンケルが地に伏せた。

対峙するヴォルフとジョージ。
ダンケルとの戦いによって、二人はもはや気力のみで立っている状態。
残された最後の力……全身全霊を込めた、正真正銘最後の一撃を互いに放ち……勝ったのはヴォルフだった。

これで"番長オブザ番長"は俺で決まり。
学園内での死闘禁止(1年間)によって学園生活も安泰に。
……"それ"はそんなことをヴォルフが考えてるまさにその時だった。

「お兄ちゃんを虐めちゃダメー!!」

声の主はジョージ・トドロキの妹『エミリア・トドロキ』のもの。
満身創痍のヴォルフには、眼前に迫る"中身がギッシリと詰まったランチボックス"を避けることは出来なかった。
薄れゆく意識の中で彼が思った事は唯一つ。 「……カ、カワイイ///」それだけだった……。

こうして第一回"番長オブザ番長"は飛び入りの参加者『エミリア』が君臨することで幕を閉じた。
"番長オブザ番長"の特権『絶対君主』としてのエミリアが命じたのは「お兄ちゃんを虐めちゃダメ!」。
ジョージにとって……学園の番長を目指していた兄にとって……不名誉なこの命令は、約束通り1年の期間守られる事となるのだった。


――時間も過ぎて後夜祭。
番長ファイトに参加しなかった者も、参加をして競いあった面々も、校庭で『火』を囲み、お互いの活躍を讃え合う。
そこには健全で爽やかな、学生らしい青春の輝きがあった。

遠く……"違う世界から招いた友人たち"にも、我が校の学園祭を存分に楽しんで貰えたようだ。
彼らを"本来の世界へ"と返還するという大仕事もひと段落し、後夜祭を楽しむ生徒たちの姿を眺めるダンケル。
傷だらけの彼の心には確かな満足感があった。